2023年の電子ジャーナル出版業界トピック ~オープンアクセス、AI、剽窃チェック、JIF・・・今年の電子ジャーナル出版業界の世相を表すキーワードは~
その他, 2023.12.28リロ先生 |
こんにちは、リロです。もう12月、今年はみなさんにとってどんな年でしたか? 先日、今年の世相を表す漢字として『税』が、また流行語として『A.R.E.』が選ばれました。どちらも2023年の社会情勢を表す言葉ですね。 さて、今年の電子ジャーナル出版業界でも様々な出来事がありましたが、みなさんはどんなこと(キーワード)が印象に残っていますか?今日は、2023年のトピックを振り返って、この教室で電子ジャーナル出版業界の今年の世相を表すキーワードを勝手に選んでみたいと思います。まずは、J-STAGE大好き犬のラム君。あなたが一番に思いつくキーワードはなんですか? |
ラム |
ワン!ワン!僕は、『オープンアクセス』を挙げたいと思います。オープンアクセス(OA)については以前からいろんなところで話題に取り上げられ、義務化を推進する声も挙がっていたけれど、今年5月に内閣府から2025年度より新規公募の公的資金による学術論文・研究データについては即時オープンアクセス化(義務化)に関する方針が打ち出されたんだよ。 以下に、概要を教えてあげるね。詳細は内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局および10月に公表された「公的資金による学術論文等のオープンアクセスの実現に向けた基本的な考え方」を見てね。 内閣府の具体的施策:
環境整備:
以上のことが取り上げられているんだ。具体的にJ-STAGEやJ-STAGE Data、及びJxivなどのプラットフォームについての充実の必要性も謳われているので、僕はとても期待しているんだワン。 |
リロ先生 |
それはワンダフルよね。私もこれについてはニュース等で読んだけど、まだまだ検討していかないといけない課題や問題もあるようね。でも、これでどんどんOA化が進んでいくと良いわね。ところで、J-STAGEのOA化の状況はどうなのかしら?進んでいるのかしら。 |
ラム |
よくぞ聞いてくれました。この方針を見てJ-STAGEのOA化の状況をJ-STAGEのホームページに載っているシートをダウンロードして調べてみたんだ。そしたら、現時点でJ-STAGEからOAで公開されているジャーナルは157誌に増えてました。さらに、これらの各ジャーナルの規程類を学会ホームページで調べて分かったんだけど、この内のおよそ2割はいわゆるダイヤモンドOA誌のようだよ。
これらOA誌に認証無で自由に読めるフリーアクセス誌を加えると、J-STAGEで公開しているジャーナルの約90%はフリーで読むことができるんだよ。(J-STAGEの公開誌数:2023年10月末時点で約3,900誌) (JEPA-XSPAセミナー JST: 日本の学術論文出版について- J-STAGE及びJxivを通して 資料より) もともとJ-STAGEはOAを強く推奨しているし、今回の政府の方針を受けて今後、ますますOA化が進んで行くと思うな。僕の先輩が参加しているある学会では、このタイミング(2025年1月)で英文誌をJ-STAGEからダイヤモンドOAで発信していくことを宣言したらしいよ。他にもプラットフォームを海外出版社からJ-STAGEに移行してOA誌として公開することを検討している学会や、現在J-STAGEでフリー公開しているジャーナルをOA誌とする学会もあるみたいだよ。 |
リロ先生 |
ラム君、どうもありがとう。 海外サイトから公開されている日本のジャーナルがJ-STAGEのような国内サイトからどんどん公開されるようになって、自由に論文を読めるようになることを期待したいわね。次は、転校生のウニコ君、何を挙げますか? |
ウニコ |
初めまして。この度、明子先生の教室から転校してきたウニコ(男の子)です。僕は『剽窃』を挙げたいです。 2023年9月に、JaLC DOIを付与するJ-STAGE登載誌の発行機関向けに「J-STAGE類似性チェックサービス(JaLCDOI版)」がようやくJaLCからリリースされましたよね。それまでCrossrefDOIを付与するJ-STAGE登載誌の発行機関向けの「J-STAGE Similarity Check」はあったのだけど、日本語文献の類似性チェックを高い精度で行えるツールが欲しくて今か今かとずっと待ってたんだ。日本語論文を執筆する際に有用なので、僕にはとてもありがたいことだったんです。このサービスは有料なんだけど、出版前の投稿論文や記事原稿等を既存の論文や出版物等と照合し重複を検出するためのオンラインツールで、J-STAGE登載誌への投稿論文や記事原稿について、他論文との類似性や不適切な引用、盗用、剽窃の確認、二重投稿のチェックに利用することができるんだワン。 |
リロ先生 |
それは良かったわね。J-STAGE類似性チェックサービスについて初めて聞いた生徒は、こちらもジャーナル・カフェでルイージ先生が記事を執筆しているので是非、そちらを参照してね。
同じく転校生のアエル君。あなたはいかがかしら?何か気になったトピックとかある? |
アエル |
はい。ウニコといっしょに4月に転校してきたアエルと言います。どうぞよろしく。 僕は、『AI』を2023年のキーワードに推薦したいです。今年10月、Springer Nature社が、AI駆動型科学論文執筆支援サービス”Curie”を導入したとの発表がありました。英語を母国語としない研究者の論文執筆をサポートするサービスで、英語への翻訳機能、文法の誤りへの対処、言い回しや単語を修正する英語編集機能などがあるんだって。Springer Nature社のジャーナルのすべての著者が利用可能で、投稿前のチェックリストに統合されているため、著者が利用しやすくなっているそうなんです。 また、この他にもAIによる読解支援ツールとか検索支援ツールなども次々と出ているようだよ。 これからは論文執筆や査読、検索などに生成AIがどんどん活用されて便利になっていくんでしょうね。でも、僕はちょっと心配なところもあるんです |
リロ先生 |
よくご存知ね。生成AIの論文執筆や査読等への応用についてはその危険性も懸念されていて、海外の出版社や団体からChatGPTなどのAIツールに関するガイダンスやAIを用いたテキスト生成に関するポリシーなどが発表されていますよ。日本でも論文執筆や出版活動にAIツールが利用されていくようになると考えられてますが、賢く利用することが大切ね。
では、最後に新入生のリンちゃん。まだ1歳で難しいかもしれないけど、何か印象に残ってますか? |
リン |
リンです。10月にこの教室に入学しました。若輩者ですがよろしくお願いします。 私は、電子ジャーナルのことはまだ良く分からないんだけれど、今年のキーワードには『ジャーナルインパクトファクター』(JIF)を提案したいです。 今年11月に掲載されたジャーナル・カフェの記事を読んだよ。JIFは今年大きく改定され、芸術・人文科学分野を含む多くのジャーナルに付与されるようになったんですってね。これによって、今年発表されたJIF2023版では日本の約350誌のジャーナルがJIFを取得し、その内97誌に新たにJIFが付与されたと教わったよ。また、JIFの表示を小数点以下3桁から小数点以下1桁に変更して、細かな評価よりも大まかな傾向を把握することに重きを置いたんだってね。 |
リロ先生 |
そのとおりよ。まだ入学したばかりなのに良く勉強したわね。
ラム君、もしJ-STAGE登載誌の最新のJIFの状況について調べていたら、可能な範囲で教えてあげてくれる。 |
ラム |
もちろん調べてみたよ。J-STAGEのジャーナルトップ画面や登載ジャーナルの学会ホームページ等から僕が独自に調べた限りでは、J-STAGE登載誌は2023JIFで148誌に付与されていました。(J-STAGEを主公開サイトとしているもの)以前に比べて大幅に取得誌が増えたようだワン。
J-STAGEに登載されているジャーナルで2023JIFが比較的高いのは、
だったけど、JIFは各学会のホームペ-ジやJ-STAGEのジャーナルTOPページにほとんどが表示されているから気になるジャーナルがあったら見てるといいワン。ちなみに、全国内誌では、日本光化学協会の「JOURNAL OF PHOTOCHEMISTRY AND PHOTOBIOLOGY C-PHOTOCHEMISTRY REVIEWS」が13.6、日本精神神経学会の「PSYCHIATRY AND CLINICAL NEUROSCIENCES」が11.9だったよ。 JIFの活用については、分野によって数値に幅があるし賛否両論あるけれど、ジャーナルの分野毎の一つの指標、参考値として見ると良いと思うよ。 |
リロ先生 |
ごくろうさま。さすが、ラム君はJ-STAGE親派ね。
さあ、これでみなさんからの提案が出そろいました。では、どれを今年のキーワードに選定しましょうか。 |
アエル |
ちょっと待って! 先生からの提案はあった? |
ウニコ |
まだだよ。 |
リロ先生 |
あら、そうでしたね。ごめんなさい。 私は、そうね~、これまでのみなさんからの提案内容も考慮して『J-STAGE』を今年のキーワードに挙げようかしら。なぜなら、コロナ明けの2023年、J-STAGE登載誌はほぼコロナ感染前の状況にもどり順調に増加しているし、来年早々にはジャーナルの他、会議論文や技術報告・解説誌等を含めた全公開誌数が4,000誌を達成しそうなのよ。コロナの影響で医学・バイオ分野の論文が当然ながら増えているけど、自然科学分野以外の人文・社会科学系のジャーナルも、さらには発行機関が学協会以外の機関(例えば、大学や地方自治体の研究機関、博物館等のジャーナル)もどんどん登載されているワン。
資料種別では、2022年11月のジャーナル・カフェで、研究報告書・技術報告書が突出して増加しいるとの記事が報告されていますが、今年も研究報告書・技術報告書の伸びが著しいワン。 また、連携先についても2月には世界最大の図書館共同体OCLCが提供するWorldCat.orgおよびWorldCat DiscoveryとJ-STAGEとのデータ連携を開始したのよ。 J-STAGE公開誌の資料種別毎の推移 J-STAGE資料一覧ページより 最新の情報はこちら さあ、これで出揃ったわね。まだまだ他にもたくさんあると思うけれど5人(匹)しかいないのでこの中から選出したいと思います。投票とするとどれも過半数を得ることが難しそうなので、先生に任せてもらいますワン。 では、独断と偏見をもって今年の電子ジャーナル業界の世相を表すキーワードは、来年以降のさらなる躍進を期待して『J-STAGE』とします。 |
ウニコ |
ん??????? |
リン |
ん??????? |
アエル |
ん??????? |
ラム |
賛成! |
リロ先生 |
今日の授業はこれで終了で~す。みなさん、おつかれ生でした。 |