プレプリントとDOI
JaLC, 2021.10.15最近、国内のあちらこちらでプレプリントについての話題を目にすることが増えてきました。夢でプレプリント、目覚めのプレプリント、食後のプレプリントと言った具合です。今回のコラムではプレプリントとDOIについて紹介します。
プレプリント?
プレプリントという言葉は聞いたことはあるけれど、具体的なイメージが沸かない人もいらっしゃるかと思います。
- プリントにプレが付いている。
- プレを付ければ後に続く言葉の「前」を意味する。プリントの前ということか。
- プリントは印刷のことなので、まだ印刷されていないもの。
つまりジャーナルの論文として正式な査読をうける前のものということで、正式なジャーナル出版工程を経ていないラフ版や原稿というステータスのものです。また、プレプリントサーバーとはプレプリントを公開するためのプラットフォームのことです。
プレプリントをプレプリントサーバーに公開する目的は何でしょうか。
論文が正式に公開されるまでには時間がかかります。研究成果を早く公開し、広く読まれることにより、フィードバックを得やすくし、よりよい研究につなげるために活用されています。また、プレプリントで公開した論文でも投稿を受け付けるジャーナルが増えて来ているため、論文公開後、研究の新規性をアピールするためにプレプリントサーバーで公開するメリットがあります。なんとなくプレプリントは気軽に公開されているのかな?というイメージがありますが、一度公開したあとは通常どおり論文公開のお作法を踏襲しているようです。撤回はできますが、撤回理由を明示することや、基本的なメタデータは削除されずに残る仕組みをとっています。
例)arXivでの撤回について
※arXiv(アーカイヴ):物理、数学、コンピューターサイエンスなどのプレプリントを公開するプレプリントサーバ
正式版の論文を元にプレプリント版までトレース可能となれば、早く世に公開した著者の価値になりますね。そこでDOIの存在感が出てきます。
プレプリントのDOI
ほとんどのプレプリントサーバーでは公開時DOIが付きます。DOIが付くということは、メタデータが流通し発見されやすくなると言うメリットがあります。DOIといえばCrossref。Crossrefでは以下のようにコンテンツのバージョン管理について説明がされています。
バージョン | 意味 |
---|---|
Draft | ドラフト |
Preprint | 研究者がプレプリントサーバー等で共有した初期のドラフトや原稿(特定のジャーナル以外のもの)。 |
Pending publication (PP) | 受理されたがオンラインで公開されていない原稿。 |
Advanced online publication or ahead of print (AOP) | 出版社が自社のプラットフォーム上で読者に提供する早期の出版物(組版前または最終的な出版物になる前)。 |
Author accepted manuscript (AAM) | 査読を経て受理されたが、英文校閲や組版が行われていないもの。 |
Version of record (VoR) | 英文校閲、組版され、公開されたバージョン。 |
Updated | 補足データの追加や修正、または撤回のこと。 |
そしてDOIをどの段階で割り当てるべきかについても説明があります。
バージョン | DOIの対象となるのか? | どのDOI? |
---|---|---|
Draft | No | – |
Preprint | Yes | DOI A |
Pending publication (PP) | Yes | DOI B |
Advanced online publication or ahead of print (AOP) | Yes | DOI B |
Author accepted manuscript (AAM) | Yes | DOI B |
Version of record (VoR) | Yes | DOI B |
Updated | Yes | DOI C |
- ドラフト(未発表)のコンテンツにはDOIを割り当てるべきではない。
- プレプリントは独自のDOI(DOI A)を持つべきである。
- Accepted version(PP、AOP、AAM、VoRを含む)には、別のDOI(DOI B)を設定する。DOI BとDOI Aの間には、DOI B “hasPreprint” DOI Aのような関係を確立して、両者のつながりを示す。
- 公開されたバージョンが大幅に変更された場合は、修正/更新/撤回を説明する通知を公開する必要がある。更新版には新しいDOI(DOI C)を付けるべきである。更新は、コンテンツの解釈やクレジットに影響を与える可能性が高い変更(editorially significant changes)についてのみ寄託すべきであり、単に関係性を主張するのではなく、これらをCrossmarkを用いて記録すべきである。
ちなみにプレプリントの改版があった場合は、新しいDOIを割り当て、メタデータにisVersionOfタイプのリレーションを記述しバージョンを関連付ける必要があるとのことです。また、表中のDOI B以降はCrossmarkの対象ですが、プレプリントのDOI Aは対象外です。
おわりに
プレプリントのDOIってどうなってるのだろうと書き始めたコラムですが、なかなか勉強になりました。プレプリントのDOIは論文受理後のDOIとは明確に分けて管理していますが、各DOIのメタデータに関係性が適切に登録されていれば、プレプリントがどのように変更されてジャーナル論文として出版されたのかトレースできるようになります。また、DOIが付いていると引用、被引用の分析や研究助成の効果測定など機械的にできるようになるメリットがあります。今後、これまでのジャーナル出版のメリットを活かしつつ、デメリットを解決するような仕組みやプレプリントが研究に及ぼしたインパクトを評価できるようなサービスが出てきそうに思いました。
以上、プレプリントとDOIについて調べてみました。
それではみなさんハッピーなプレプリントDOIライフを!