J-STAGEセミナー「国際動向への対応:出版倫理」から考えられる研究不正への対応

セミナー, 2019.11.29

こんにちは。ダニエル・イッスです。

大変ご無沙汰となってしまいましたが、台風に家のフェンスを破壊されながらも(千葉市在住)そこそこ元気にやってます。家周辺の道路等もだいぶ復旧はしましたが、まだ陥没したままのところがちらほら残っていますので、完全に元に戻るまでにはもう少し時間がかかりそうです。

さて、10月21日に開催されたJ-STAGEセミナー「国際動向への対応:出版倫理」の内容から、研究不正の対策で何かみなさまに情報を共有できないか考えてみました。

そこで、ここでは研究不正のひとつである「論文の剽窃」と「オーサーシップの不備」の2本に絞って触れてみたいと思います。

日本は不正大国?撤回数TOP10に多くの日本人研究者が・・・

「日本は不正大国」とあまりイメージのよくない言葉を出しましたが、みなさまもニュース等で日本人研究者によるデータ改ざん等の不正を耳にすると思います。午前の部「国際ルールと国内ルールの間隙をどう埋めるか」において市川家國先生が発表された資料「研究者の論文撤回数Top10」を見ると、このTOP10の中に日本人研究者が5人もいることが分かります。意外と思われる方もいるかもしれませんが、残念ながら午後の部の北村聖先生の発表資料「研究倫理をどのように教育するか」をみても毎年のようにデータ捏造等の不正が行われており、その行為は後を絶ちません。ほんの一部の研究者による行為ではありますが、学協会としても『研究不正はおきるもの』と考えた方がよさそうです。

論文の剽窃を検知する方法として

では、このような不正をどのようにして見つけるか。多くの論文を受け入れる学協会のみなさまにとっては悩ましいかと思います。ただ、ジャーナルに掲載された後に不正が発覚すると、その裏付け・根拠を示すための調査や著者への聞き取り、また、論文を撤回する手間など、学協会にとって大きな負担となります。何よりジャーナルのブランドを傷つけることにもなります。

できる限りジャーナルに掲載する前に不正を発見・防止したいところですが、ここでは研究不正のひとつ「剽窃」に絞ってそれを検知、抑制する方法について書いてみます。

数多くの論文・資料から人の目だけで剽窃を検知するのは大変です。それをシステム的に検知する手段としてSimilarity Check(上記の資料では「CrossCheck」と記載されていますが、Similarity Checkの旧名称で同一の機能を指しています)があります。

Similarity Checkは、簡単に言うと論文の剽窃をシステムでチェックするツールです。貴誌に投稿された論文をSimilarity Checkを利用して検索すると、学術雑誌掲載論文6,000万件以上、学術出版社の出版物1億1,400万件以上、インターネットWebサイト680億件以上ものデータベースから自動で類似率を算出します。結果は50%というような類似率が表示されますので、その数値から盗用の可能性があるかないかを判断します。分野によって類似率の高低差があるようですので、類似率が高いからといってすぐに剽窃だと判断できるものではなく、最終的は人の目で判断することになります。それでも数ある投稿論文からまずは類似率を参考にすることでも効率化がはかれると思います。

なお、このSimilarity Checkは、弊社が扱っている投稿審査システムEditorial Managerと連携ができますので、投稿された論文をEditorial Manager上でワンクリックで検索をかけ、簡単に類似率を出し審査にまわす、という運用もできます。


(Editorial Manager編集者画面)

また、Similarity Checkのロゴを投稿の入り口に表示することで、投稿者にシステム的なチェックをしていることを明示できますので、それによって剽窃論文の投稿を未然に防ぐ効果もあります。

オーサーシップの問題とその対策

続いてオーサーシップの問題について取り上げたいと思います。

上記でも紹介しました北村聖先生の発表資料を読むと、たびたびギフトオーサー等のオーサーシップに関する話がでてきます。

実際にオーサーシップの不備に関する実例ですが、主に下記のようなケースが考えられます。

  1. 投稿時に著者が共著者のメールアドレスを勝手に作成する
  2. 共著者の許可を得ないで投稿する
  3. その論文に深く関わっているのに著者からはずしている
  4. 改訂時に筆頭著者、または連絡著者が著者全員の同意なく共著者を変更する

論文投稿を受け付ける際、オーサーシップに関する確認をどこまでやるか悩ましいところです。学会によっては、投稿規定にオーサーシップに関する規定を記載し、それに同意したうえで投稿するよう促しているところもあります。全著者の同意を得られるまで審査を開始しないよう縛りをかけ、さらにオーサーシップフォームを提出させる等、厳しく対応するという方法です。

また、上記の1.と2.に限った話ですが、Editorial Managerの機能のひとつに「共著者確認機能」というものがあります。共著者全員にメールを送信し同意を求めるという機能です。事務局や編集委員の先生方がシステム的に確認した上で審査を進めるということができるようになっていますので、負担を軽減させることができます。

以上、「Similarity Check」にしても「共著者確認機能」にしても、最終的には人の判断は必要になりますが、それでも判断材料としてシステムで対応できることはシステムに任せ、できる限り事務局や編集委員の先生方の負担を軽減できれば、その分の時間を別の重要なことに使えるかと思います。

なお、今回のJ-STAGEセミナーの資料は、J-STAGEのサイトにて公開されています。また、Editorial Managerについてはこちらの記事もご参照ください。

ではでは。