プレプリント・サーバーの動向 ~プレプリントを投稿しよう~

その他, 2022.05.24

こんにちは、ラムです。

最近、プレプリントに関する話題を良く耳にします。僕も今度、プレプリント・サ-バーに投稿しようと考えています。そこで、プレプリント投稿の入門編として、恩師のリロ博士にプレプリント・サーバーの動向と投稿に際しての注意点について教えてもらいました。

 

ラム

プレプリント、プレプリント・サーバーって簡単に言うとどんなものなの?

リロ博士

プレプリントとは、正式な論文として発表される前段階の論文、すなわち査読を受ける前の学術原稿のことなの。査読済み論文が公開されるまでには非常な手間がかかっているのよ。投稿された論文は、まずエディターが内容をチェックし、次に該当分野の専門家による査読が行われ掲載すべきかどうかを判断するの。投稿者は、査読者の要請に従って記載内容の改訂や実験データの追加などを行うので、公開するまでには多大な時間がかかっている。学術論文に慎重な審査は必要だけど、あまりに時間がかかっては、研究分野の進展を大きく加速させることの妨げになるし、特許の先行取得にも影響するでしょ。こうした背景から、このプレプリントを記録・公開するサイトであるプレプリント・サーバーが普及してきたの。IT の進展と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行もあり、急速に利用が進んでいるみたい。また、プレプリント・サーバーに投稿されたプレプリントにはDOIが付与されるため、広くデジタル世界で認知されるメリットがあるのよ。

 

ラム

プレプリント・サーバーを利用すると素早くタイムリーに投稿・公開ができるんだね。他にもいいことあるの?リスクはないのかな。

リロ博士

プレプリントの形で公開することで、読者から幅広く迅速なフィードバックを受けることができる。なので、ジャーナルへの投稿時までにプレプリントをより質の高いものへ改善できる利点があるわね。また、閲覧する研究者や学生にとってはいち早く無料で学術情報にアクセスできるのでとてもありがたい存在と言える。
リスクとしては、査読を通していないためにプレプリントの内容が保証されないのではという指摘があるわ。これは、査読がなされないために、必ずしも科学的でない情報が、誤って急速に世の中に拡散してしまうのではないか、という不安があるからじゃないかな。学術情報の信頼性をどのように担保していくか、誤った情報の拡散をどう防ぐかは継続課題ね。また、サーバーが恒常的に安定して運営されていくこと、そしてプレプリントが引用可能な文献としてその ID とともに永久に保証されていくことも必要なことね。

ラム

ところで、いつ頃から始まったものなの。日本にもプレプリント・サーバーってあるの?

リロ博士

プレプリントは長年、物理科学分野で、アイディアの提示や迅速な結果発表、他の研究者から得られるフィードバックを基に研究をさらに発展させることなどを目的として、使われてきたの。1991 年に数学・物理学分野の「arXiv(アーカイブ)」が始まり、その後、2013年に生物学分野の「BioRχiv(バイオアーカイヴ)」が、化学分野でも2017年に「ChemRxiv(ケムアーカイヴ)」が立ち上がったの。さらに2019 年には医学系のプレプリント・サーバー「medRxiv(メドアーカイブ)」の運用が始まっていて、今や人文・社会科学系を含めたあらゆる分野に広がりを見せているわ。主なプレプリント・サーバーは、2020年時点で既に50種以上あるようよ。
今年(2022年)の3月に、J-STAGEを運営している科学技術振興機構(JST)が、英語でも日本語でも無償で投稿できる日本初の本格的なプレプリント・サーバー「Jxiv(ジェイカイブ)」をスタートしたの。もちろん、閲覧も無償なんですって。

ラム

 

それはワンダフルだね。Jxivはどのようなサービスなの?

リロ博士

Jxiv は、自然科学・人文学・社会科学、学際科学を含むすべての研究分野のプレプリントを日本語あるいは英語で投稿・公開できるので、プレプリント・サーバーの利用が確立されていない研究分野や、プレプリント公開の場がなかった日本語の学術情報も早期に発信することができるわ。投稿されたプレプリントは、体裁や倫理的・法的リスクなどに関するスクリーニングが行われた後、数日以内にDOIを付与して速やかに公開されるの。いったん公開されたら半永久的に公開され、非公開にしたり削除することはできないのよ。
JxivはJSTが運営するサーバーだけど、査読付き論文をJ-STAGE以外の電子ジャーナルサイトに公開する場合でも投稿は可能なの。そのような場合も含め、査読付き論文がジャーナルから公開された時には、そのジャーナル版へのリンクを掲載することもできるそうよ。

ラム

 

Jxivに投稿しようと思うんだけど、ワンポイントアドバイスをくれる?

リロ博士

投稿するには、researchmap のアカウントまたはORCID のアカウントを持っている必要があるとのことで、まずはそのアカウントを取得することが必要ね。投稿の前に、Jxivの投稿規定と投稿ガイドラインが公開されているから、必ずそれを読むといいわ。それから、一度プレプリントの形で公開するとその後、査読付きジャーナルへの投稿を制限する(プレプリント・サーバーで先行公開された研究論文を受け付けない )ジャーナルもあるので注意してね。ただ、多くのジャーナルがプレプリント・サーバーに登載したプレプリントについても投稿を受け入れるようになってきていて、J-STAGEに登載されているジャーナルでも、Electrochemistry誌(電気化学会)やBiophysics and Physicobiology(日本生物物理学会)などのように、Jxivに登載されたプレプリントの投稿を受け付けることをウェブサイトや投稿規定で明確に表明している学会もあるわよ。J-STAGEに登載しているジャーナルの投稿規定を事前に確認しておいた方がいいわ。
近い将来、Jxivに登載されたプレプリントを容易にJ-STAGE登載誌に投稿できる仕組みができるみたい。こうした取り組みで日本人の投稿がどんどん増えるといいわね。
以上、ニャン ポイントアドバイスになってしまったけど、参考にしてね。

ラム

 

リロ博士、どうもありがとう。さっそく投稿してみよっと!