「科学技術・イノベーション基本計画」と人文・社会系の電子ジャーナルの動向

その他, 2021.12.28

初めまして。ラムです。

日本はコロナ感染が落ち着きを見せていますが、まだまだ油断のできない日々が続いています。今回は国の「科学技術・イノベーション基本計画」と人文・社会系の電子ジャーナルと電子化の動向について概観してみたいと思います。

科学技術・イノベーション基本計画

科学技術・イノベーション基本計画とは、科学技術基本法に基づき政府が策定する10年先を⾒通した5年間の科学技術・イノベーションの振興に関する総合的な計画です。

今年の3月に策定された「第6期科学技術・イノベーション基本計画」は、2021年度から2025年度の5年間にわたる日本の科学技術・イノベーション政策の基本的な方向性を定めたもので、これまで科学技術の規定から除外されていた「人文・社会科学」を加えるとともに、「イノベーションの創出」を柱の一つに位置づけられました。

⼈⽂・社会科学の厚みのある「知」の蓄積を図るとともに、自然科学の「知」との融合による、人間や社会の総合的理解と課題解決に資する「総合知」の創出・活⽤がますます重要と指摘されています。人文・社会科学の「知」の蓄積と自然科学の「知」との融合のためには、自然科学とともに人文・社会科学の研究成果に係る情報を広く利⽤できる環境整備の推進が必要であることは間違いありません。

こうした中で、学際科学および⼈⽂・社会科学系の学協会における環境の状況および情報流通・発信は今どのような状況にあるのか、日本を代表する電子ジャーナルプラットフォームであるJ-STAGEと、演題・参加登録から抄録や講演動画のオンライン公開まで学術大会をサポートするConfitの利用状況について概観してみました。

 

J-STAGEにおける人文・社会科学系ジャーナルの公開状況

J-STAGEの検索機能を用いて、現在公開されているジャーナルの分野別割合を調べてみました。その結果、2021年11月時点で学際科学系(情報科学/環境学/学際科学)と人文・社会科学系(哲学・宗教/文学・言語学・芸術学/人類学・史学・地理学/法学・政治学/経済学・経営学/社会学/心理学・教育学)の全体に占める割合は40%弱となっていました。

2011年当時の資料では下記のとおり約20%でしたので、この10年間で学際科学系と人文・社会科学系ジャーナルの全体に占める割合が約2倍に増加しています。

一方で、2021年1月~11月に新たにJ-STAGEで公開を開始した雑誌(ジャーナル、会議録、研究報告等、約200誌)を見てみると学際科学系または人文・社会科学系を分野として登録としているものが50%以上ありました。また、公開記事数についても学際科学系および人文・社会科学系の論文(記事)は全体(約530万件)の25%を占めています。(ジャーナルおよび記事の分野は重複して登録されている場合があります)

これまで、人文・社会科学系ジャーナルの電子化は自然科学系に比べて大きく遅れていましたが、これを見る限りこの分野の電子化が急速に進んでいることが窺えます。

さらに、この上記新規公開200誌のうち、冊子体を発行していないいわゆるオンラインジャーナルは約3割に及んでおり、このうちの半数は学際科学および人文・社会科学系の雑誌でした。電子化が進む一方で冊子体の発行を行わない学協会が人文・社会科学系でも増えつつあるようです。

 

Confitにおける人文・社会科学系大会の利用状況

Confitは2010年にスタートし、演題登録、参加登録、演題査読、プログラム編成、Web抄録、eポスター・動画公開など大会運営事務の自動化と電子化をサポートしています。これまでに延べ1,000大会以上の導入実績を有しており、理学・工学分野、生命科学分野では多数の学協会等が継続的に利用しています。

2014年以降は人文・社会科学分野の学協会も利用を開始しています。2014、2015年度は利用数が2大会だったのが、2019年度は14大会、2020年度は27大会、2021年度は28大会(2021年11月末時点)が導入しており、人文・社会科学系の利用が年々増加しています。

人文・社会科学系ジャーナルの電子化の推進のみならず、IT化も進んでいると言えます。

コロナ禍の影響(一考察)

人文・社会科学系ジャーナルの電子化、自動化が進んでいることは科学技術・イノベーション基本計画の内容に沿ったものとなっていますが、電子化が進んでいる一つの要因としてコロナによる影響が挙げられます。実際、大学図書館や研究室等の一時閉鎖やテレワークにより、学会誌や論文誌を電子ジャーナル化していつでも閲覧できるようにする必要性を感じた、あるいは、大会をオンライン開催に移行するために実施した大会運営事務の自動化・電子化により業務の効率性・利便性が向上した、というような声が聞こえています。

一方で、コロナは研究者の論文投稿にも影響を与えています。弊社が提供しているEditorial Manager(EM)では論文投稿数が昨年来大幅に増加しています。感染症関係を含む医学系の投稿が増えることは当然として、それ以外の分野でも同様の傾向が見られます。これは、テレワークによる在宅勤務の増加で論文を執筆する時間が増えたことによるものと考えられます。これは、日本だけの傾向ではありませんが、昨今日本人の論文投稿数が伸び悩み世界に比べて少なくなっていた中で唯一、明るい材料かもしれません。

コロナ感染は一日も早く完全収束して欲しいところですが、これら電子化の推進と論文投稿数の増加については元の状態に戻ってしまうことなくさらに推進されると良いですね。