NISTEP講演会「AIとオープンサイエンスが拓く日本のアカデミア発スタートアップ」に参加してきました

セミナー, 2019.02.26

高橋です。

2月14日に開催された「AIとオープンサイエンスが拓く日本のアカデミア発スタートアップ」に参加したので、今回はいつものORCIDの連載から離れ、こちらについて書きたいと思います。

こちらのセミナーでは、Paper Digestというスタートアップのプロダクトの紹介、および日本発のアカデミア×スタートアップが「生まれて」→「育ちやすくする」ために必要な土壌についてのディスカッションがありました。

Paper Digestがカレントアウェアネスで取り上げられた際に、アトラス社内SNSでも話題になったので、とても楽しみにして参加したのですが、期待通りの内容でした。

 

Paper Digestとは?

 

Paper Digestを一言で言うと、

「論文のダイジェスト版を作ってくれる」

サービスです。

もう少し丁寧に、誰の何を解決するサービスか?について紹介します。

 

誰の課題を解決するサービス?

プレゼンの中で「3N」というキーワードを使った説明があり、大変分かりやすかったです。
要するに、英語圏以外のこれからたくさん論文に触れる必要がある人、といったところでしょうか。
こちらが3Nです。

  • Non-native English speaker
  • Non-expert
  • Non-tenured

どんな課題を解決する?

上記の3Nの人たちは、

  • 「たくさんの論文を読む必要がある」
  • 「とはいえ時間は限られる」
  • 「自身の専門の論文を読むとは限らないので言語の壁が大きい」

という課題を持っているとのことです。

創業者の高野さんご自身が1週間で論文を1,000本読む必要に迫られたことがあり「全部読むのツラすぎ」という体験が強い動機になっているとのことでした。
サービスの優先順位を考えるときに、立ち返る場所はこの原点なのだと思いました。


どうやって解決する?

論文のDOIかURLを入力すると、オープンアクセスの論文ならAIがすぐにダイジェスト版を作成してくれます。
アルゴリズムについて細かい説明はありませんでしたが、これから更にブラッシュアップしていくようです。

高野さんの説明が非常にわかりやすかったのですが、「映画の予告編」ではなく「映画のネタバレ」を作ってくれるイメージです。
抄録は「予告編」、Paper Digestは「ネタバレ」といったところでしょうか。
映画の予告編でネタバレしたら観客は怒るでしょうが、論文なら歓迎ですね。

 

日本発のアカデミア×スタートアップの支援に必要なことは?

高野さんのプレゼンで、これまでの出来事や幸運や欲しかったサポートなどがいくつか挙げられましたが、その中で特にポイントだと思った点をピックアップします。


技術ドリブンではない

「アカデミアの人はどうしても技術ドリブンに寄りやすい傾向がある」というコメントがありましたが、Paper Digestは高野さんの原体験からスタートしています。
リリース後もユーザの声を聞きながらブラッシュアップを進めているとのことでした。
プロダクトアウトではなく、マーケットインなのですね。


高野さんとクリスチャンさんの信頼関係

共同創業者の高野さんとクリスチャンさんは共同研究をおこなっていたこともあり、お互いの “人となり” を良く知っているところからスタートしたとのことです。
「アカデミアの人でないと伝わらないこともある」といった内容を高野さんは言っていましたが、コミュニケーションロスも少ないようです。


宮入さんとの出会い

宮入さんの知識、経験がなかったら「何もわからず最初の一歩目で地雷を踏んでいたので、今はなかった」とのことです。
宮入さんのように、Digital Science関係や他国のアカデミックスタートアップの成長を見てきた知識や経験は高野さんやクリスチャンさんにはなかったようです。持っていないのが普通だと思います。
ビジネスの部分とコネクションの部分で大変な力になっているとのことでした。
アイデアや技術が優れていてもそれだけでは難しく、いかにマーケットの中に食い込むルートと、そこに達するスピードも大事なのだと思います。そのルートとスピードを持っていたのが宮入さんだったのですね。

Paper DigestはDigital Scienceのグラントを得ており、2週間に1度の電話会議で様々な助言があるようです。


時代と合っているだけでなく、その先を見ている

オープンサイエンスは時代の大きな潮流です。Paper Digestはその流れに乗っているサービスです。
更に大きいことが、「起こることの先を見ている」点です。
セミナーでも「オープンサイエンスにすることが目的ではなく、オープンになったその先に何が起こるか?に関心がある」というコメントがありましたが、そういった視点がサービスに反映されていると思います。

 

その他にも、高野さんもクリスチャンさんもポスドクということで、別に収入源があることも大きいというお話もありました。確かにその通りだと思います。

アトラスも「一歩進んだ価値の高いシステムとサービス」を生み出したくて日々活動しているので、大変刺激になりました。
どこかでPaper Digestとコラボできたら思います。