ジャーナルの質の向上に伴う編集業務上の懸念点

J-STAGE, 2018.11.09

こんにちは、ダニエル・イッスです。

今回のコラムでは、ジャーナルの質の向上に伴う編集業務上の懸念点と題し、ジャーナルへの投稿数が増加したことによる編集業務の負担についてご紹介したいと思います。

なぜ今回このお題かというと、2018年9月14日に開催されたJST主催のJ-STAGEセミナーに参加した際に、ジャーナルの質向上についての話を聞いたためです。セミナーでは、日本気象学会、園芸学会、映像情報メディア学会の各ジャーナルが質を向上させる取り組みについて発表されていたのですが、それらの取り組みのなかで考慮すべき点もあると感じました。そこで今回は他の学会の事例を交えてその紹介をしたいと思います。

ジャーナルの評価が上昇することで、さらに質の高い論文が集まり、そして被引用が増え、ジャーナルの質も向上する・・・という理想的なサイクルが生まれると、学協会にとっても喜ばしいことかと思います。
ただ、実際に投稿数が飛躍的に上昇したことで、逆に質の悪い論文も多く集まり、編集委員や査読者が負担が増加してしまった・・・という例もあります。

日本内科学会の「Internal Medicine」誌ですが、オンライン投稿を開始してから海外からの投稿が急増したそうです。しかし、国内から投稿される論文の採択率が50%程度に対し、海外からの論文の採択率は10 ~ 20%と低く、あきらかに海外から質の良くない論文が投稿され始めたようです。

質の悪い投稿例
1 他の学術誌に投稿したときの書式・フォーマットのまま
2 投稿規程を一切考慮しない状態での投稿
3 新奇性や科学的価値を見いだすことが困難な論文の投稿
4 不正行為が容易に疑われる論文の投稿

そのため、非会員に対しては、これまで無料だった投稿料を1論文当たり300ドル請求する課金制度を導入し、投稿数に歯止めをかける施策を実施しました。
これにより海外からの投稿がピークであった1000本 (比率50%)から、2016年には投稿数 95本 (比率6%)と大幅に減少したようです。

この日本内科学会だけでなく、ある学会(英文誌)でも、投稿のオンライン化に伴い、海外からの質の良くない投稿が増え、その分問合せも多くなり、事務局の負担が増加したケースを聞いたことがあります。

投稿数が増加することはジャーナルの認知度が向上している証でもあり、また、さらによい論文が集まるきっかけにつながりますが、海外からの投稿を受け入れるジャーナルにとって、質の向上を取り組むと同時に、予想を超えた時の想定もしておいた方がよいのかもしれません。
投稿料を徴収する方法以外にも、論文執筆時にフォーマットを用意し、そのフォーマット以外の投稿を受け付けない方法も考えられます。これにより上記の質の悪い投稿例に挙がっているNo.1の「他の学術誌に投稿したときの書式・フォーマットのまま」やNo.2の「投稿規程を一切考慮しない状態での投稿」をある程度防ぐこともできます。

(オンラインのみジャーナルになりますが)オンライン公開を想定したフォーマットを投稿者に利用いただくことで、製作工程の手間を省くメリットもあります。興味のある方は弊社までお問い合わせください

ご紹介した日本内科学会の実例は、J-STAGEの記事として掲載されていますのでご覧ください。

小笠原功明, 「日本内科学会英文論文誌『Internal Medicine』の取り組み」, 情報管理, vol. 60. 国立研究開発法人 科学技術振興機構, pp. 316-324, 2017.

ではでは。